大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(ラ)1730号 決定 1999年3月24日

②事件

抗告人(被告)

株式会社オフィスビーアンドエイチ

右代表者代表取締役

久保塚博之

相手方(原告)

富澤美智子

右代理人弁護士

富岡規雄

池末登志博

主文

原決定主文第二項を取り消す。

その余の本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は、原決定を取り消し、本件訴訟を札幌地方裁判所に移送する旨の決定を求めるというにある。

二  そこで検討するに、本件訴訟は、平成一〇年四月一日に開催されたとされる抗告人の臨時株主総会における(1)取締役・監査役の解任、(2)後任の取締役・監査役の選任及び(3)本店の移転の各決議が存在しないことを確認する旨の判決を求めるものであるから、抗告人の本店の所在地の地方裁判所の管轄に専属する(商法二五二条、八八条)。

ところで、株主総会決議無効確認の訴えその他の各種会社関係訴訟の管轄が会社の本店の所在地の地方裁判所に専属するとされているのは、この種訴訟は同一の原因に基づいて複数の者から提起されることがあり得るから、それらの訴訟の弁論及び裁判を併合して行うことによりその判断が区々になることを防止する必要があるところ、これを容易にするためには管轄裁判所を形式的・画一的に定めるのが相当であるとの考慮に出たものであると解される。そうであるとすると、この場合における「本店の所在地」は、会社の営業の全体を統括する場所的中心である営業所の所在地(実質的意味における本店の所在地)ではなく、定款で定め、登記をした「本店の所在地」(形式的意味における本店の所在地)をいうものと解するのが相当である(もし仮に実質的意味における本店の所在地によって管轄裁判所を定めるものとすると、管轄裁判所を定めることが極めて困難な場合が生ずることは見易いところであり、本件においても、原決定は、その理由中の「第三 当裁判所の判断」一5の①ないし⑤の事実を根拠として、抗告人の実質的意味における本店の所在地は栃木県宇都宮市にあると認定しているが、右①ないし⑤の事実は、いずれも抗告人の実質的意味における本店の所在地を認定するための資料となり得るものではないし、他にこれを認定するに足りる的確な資料は見当たらない。)。

そして、抗告人の形式的意味における本店の所在地は、前記(3)の決議により旧所在地の群馬県太田市から新所在地の札幌市中央区に移転したものとして、本件訴訟の管轄の標準時である本件訴えの提起の時には、その旨の登記がされていたことが明らかである。しかしながら、本件訴訟は、相手方が同決議は存在しないと主張してその確認を求めて提起したものであり、同決議が存在することは、本件訴訟において抗告人が立証責任を負う事項であるから、いまだ本案についての審理を経ていないのに、同決議が存在するものとして取り扱うことはできないというべきである。したがって、本件訴訟は、同決議が存在するならば、抗告人の形式的意味における本店の所在地は新所在地の札幌市中央区にあるものとして、札幌地方裁判所の管轄に専属することになるところ、同決議が存在するものとして取り扱うことができない以上、抗告人の右の意味における本店の所在地は旧所在地の群馬県太田市にあるものとして、前橋地方裁判所(太田支部)に専属すると解するほかないものというべきである。抗告人が抗告状に添付して提出した資料によると、平成一〇年四月一日に開催された抗告人の臨時株主総会において、定款を変更して本店を札幌市に置く旨の決議をした旨の記載のある議事録が存在することが認められるが、このことのみから右判断を動かすことはできない。そうすると、本件訴訟を札幌地方裁判所に移送する旨の決定を求める抗告人の申立ては理由がない。

三  よって、本件抗告は、原決定中本件訴訟を宇都宮地方裁判所に移送する旨の部分(原決定主文第二項)の取消しを求める限度で理由があるから、これを取り消すが、その余の部分、すなわち、原決定中抗告人の移送の申立てを却下した主文第一項を取り消し、本件訴訟を札幌地方裁判所に移送する旨の決定を求める部分は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担とし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官青山正明 裁判官小野田禮宏 裁判官貝阿彌誠)

別紙移送申立書<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例